6月9日の信濃毎日新聞朝刊・東信版に、私が農家と話している小さな記事が掲載された。佐久穂町で、新規就農を目指す人を研修生として受け入れている萩原さんの「のらくら農場」にお邪魔していることは前にも書いたが、もう少し書きたい。
しかし、萩原さんの話をきいていると現実は厳しい。
新規就農を増やすために、長野県も手を打っている。県は、農家が就農希望者を指導する「里親制度」を実施している。里親登録している農家は多いが、実際に機能している里親はわずからしい。また、就農希望者を単に労働力としてしかみない里親もいて、そういうところにいくと、就農希望者が独立できるノウハウを得ることは難しいという。萩原さんのもとにはいま40歳を過ぎた3人の研修生がいる。みんな家族がいて、人生をかけてやってくる。だからこそ萩原さんは「研修生にしっかり向き合いたい」という。その分、萩原さん自身エネルギーがいるから、長く里親を続けることは無理だろうとも話していた。この制度が悪いとは思わないが、新規就農者を増やす基盤になるかというと不安の方が大きい。
国も、なにもしていないというわけではない。農水省は、新規就農を目指す人に最長で7年間、毎年150万円を支払う「青年就農給付金」をやっている。しかし、大盤振る舞いな制度がいつまで続くのかというと、疑問といわざるを得ない。
だからといって、決して将来が暗いわけではない。いま農業に飛び込む人たちは、なみなみならぬ覚悟を持っている。前職で営業をしていたり、パソコン関係の仕事をしていたりと、それぞれが強みをもっている。萩原さんの話は続く。「そういう志の同じ人たちが5人ぐらいで組めば、小さな意欲ある法人なら、利益を上げていけるはずだ」と。夫婦2人の家族経営にも限界がある。経理の得意な人、営業が得意な人、少数でも手を組めばもっともっとやっていけるはずだという。利益が上がれば、その中から、新規就農を受け入れる農家も出るかもしれない。(続く)