5月17日、宮城県気仙沼市でマグロとカツオの専門店をしている社長に会った。
岩手県と宮城県の沖合には、南からの黒潮と北からの親潮がぶつかる、世界でも有数といわれる漁場がある。プランクトンが豊富でいい魚がとれると、たしか小学校のころ習った。気仙沼は、こうした世界有数の漁場に恵まれた日本を代表する漁港だ。有名なのはふかひれだが、マグロやカツオ、そしてサンマなどが本当に美味い。私が今まで食べた寿司で一番おいしいと思ったのは気仙沼の寿司屋だった。また戻りガツオや、サンマの塩焼きがびっくりするほどおいしかったのも気仙沼だった。私は仙台から横浜に転勤してからあまり魚を食べなくなった。魚の本当の美味さを教わったのが気仙沼だった。
さて、気仙沼で会った社長は、被災した魚市場から離れた場所に小さな店を開いて、マグロの販売を再開していた。
私が行った5月17日も店は地元の人でにぎわっていた。地元の人は「気仙沼の人はやはり魚がないとダメなんだ」と話していて、私は素直にうなずいていた。しかし、そんな前向きな社長がお昼を食べているときにぽつりと言った。
「今度また津波がきたら、こんどはのまれてしまおうかと思う」
隣にいた人が
「そういうこと言う人に限って大丈夫だから」と笑って慰める。
すると社長がまた言った。
「じゃあ目の前の川に入ってしまおうかと思う。それぐらい希望がないんだ」
店もない。冷蔵庫もない。魚市場も港もなくなり、入港する船もなくなった。
初夏にはカツオのシーズンに入るが、カツオが来ても売りさばける状態ではないと、初夏のカツオはあきらめるという。
私は「秋の戻りガツオまでになんとかなるといいですね」と言ってみた。
社長は頷いたが、すぐに
「夏になると南からの黒潮の流れが強くなるから、福島の原発の影響が心配だ。
調べてダメだったら完全に終わりだ」と言った。
漁業者の人たちは今必死に商売を立て直そうとしているし、先のことも考えている。それでも希望は全く見えないという。社長は、原発事故について報道される情報が日々変わることや、漁業の復興に国が将来像を示してくれないことを嘆いていた。
頑張ろうと言われなくても頑張っている。震災から立ち直ろうと必死な人たちが本当に欲しているのは希望と具体的な情報だ。