金田大臣に辞職を求めるスタンスは変わらないが、昨日の法務委員会では、共謀罪について大きな視点から、特に、日本で罪刑法定主義がいかに大切にされてきたのかについて問題提起をした。
多様化する社会の中でいつの時代も刑罰の増加というものが叫ばれ、そうした要請に対し個別の目的に応じた立法措置を行うことで、刑法の謙抑主義を守ってきた歴史がある。今回、共謀罪を277もの犯罪に対象を広げることは、刑法の大きな転換点である。そのことを少しでも感じていただけたら幸いだ。
質問を議事録で振り返る。45分間だったので長文。以前やった解説と同じように、()は私の解説、感想である。
平成29年3月7日衆議院法務委員会
○鈴木委員長 次に、井出庸生君。
○井出委員 民進党、信州長野の井出庸生です。私も、二月の予算委員会で大臣に辞職を求めました。その後、衆参の予算委員会をずっと拝聴してまいりましたが、残念ながら、大臣たる答弁をいただいているとは、いまだ現時点ではそう感じることができず、きょうも引き続き辞職を求めるという前提に立って質問をさせていただきます。
(この日の質問のテーマは主に3つあったが、まずは、新たな法案にたいする政府の説明姿勢について↓)
まず、この共謀罪、テロ等準備罪、呼び方はいろいろあると思いますが、私は、これから提出される法案の審議の入り方、一番最初に一月の本会議、予算委員会のあたりから議論に入ったのですが、その最初の政府の答弁のあり方というものに物すごく大きな問題があったと考えております。一月二十三日、衆議院本会議で安倍総理は、この共謀罪について、質問に答えた後に、「なお、現在政府が検討しているテロ等準備罪は、テロ等の実行の準備行為があって初めて処罰の対象となるものであり、これを共謀罪と呼ぶのは全くの間違いです。」と。全くの間違いだということを、「なお、」という言葉をつないで、あえて付言をされている。(←あえて付言しているところに、私は総理の強い意思を感じた)その後、二十四日、衆議院の本会議でも同様の答弁、二十五日、参議院の本会議では二回同じ発言を付言されております。
金田大臣も、今国会初めてこの問題について議論に立たれた一月二十六日の衆議院予算委員会で、「従前の共謀罪とは全く別物でございます。これを共謀罪と呼ぶのは誤りである、この点は申し上げておきたい」、総理と同じように、全くの別物、今までと一緒にするのは間違いだということをあえて付言をされております。
しかし、ここまでの政府の主張を聞いておりますと、当初は六百を超える対象犯罪があった、過去の共謀罪ですね。それが三度廃案になった、国民の理解を得ることができなかった。そして、その不安を払拭するために、今回、条約のオプションを行使する。きょうは踏み込みませんが、条約をよく読んだら、組織集団を限定したりですとか、実行準備行為というものを加えたり、そうした条約のオプションを使って、今度、報道によれば二百七十七。大臣も、実際、絞り込み、少なくなると思いますということは答弁をされております。
こうした一連の政府の答弁を聞いておりますと、私が問題だと申し上げた冒頭の発言、ここをもし、あえて付言をされるというのであれば、「過去の法案が国民の理解を得ることができなかった、したがって、もう一度よく条約を精査して、分析をして、改めて、対象の犯罪、対象団体、これを限定して出直すから、国民に理解をいただきたい」、そういうスタンスで入られるべきではなかったかとずっと思ってまいりましたが、その点についてコメントをいただきたいと思います。(←理解を求める言い方というものがあるだろうという話)
○金田国務大臣 御指摘に関連しましては、私どもも、かつての共謀罪と違う、何が違うのかということについていろいろと御説明をしながら進んではきたものというふうに思っておるわけであります。
主体を組織的犯罪集団に限定し、実行準備行為があって初めて処罰できるものとするものであって、共謀したことのみで処罰されるかつての共謀罪とは別物と言えるんだというふうに申し上げてきたことを御指摘だったと思うんですが、そういうことを指摘してきたことも事実であります。過去の共謀罪を含む法案審議の過程において、やはり国民の皆様の不安や懸念を払拭できなかったことについては重く受けとめておるわけであります。(←重く受け止めているという発言が、1月の予算委員会から聞いて来て、ようやく出た)新たな法案の提出に当たりましては、国民の皆様に対する丁寧な御説明が必要であることは十分に認識をしておるつもりであります。そのため、法案については、成案を得ていない現段階においても、その検討の方向性等につきましては可能な限り御説明を行っていきたい、このように思っているわけでありますが、ただ、法案について成案を得ておらないという現時点で、説明のできる内容にはおのずと限界があることにもどうぞ御理解をいただきたいな、このように思っておるわけであります。今後、成案を得た後には具体的な法案の内容に基づいて御説明を尽くしてまいりたい、このように思っています。
○井出委員 今お話があった、その中の部分にきょう入るつもりはございません。今、国民の理解が得られなかったことを重く受けとめていると。そういう話をやはり最初から言っていただくべきだったと私は思います。
安倍総理大臣は、一月二十六日、衆議院の予算委員会で、これまでの過去の法案から今回の法案に至る間のことについて、反省という言葉を一度使われております。しかし、必ずしもその趣旨は明確ではございません。私が一番問題としたいのは、これまでの過去の法案が理解を得られなかった、それを踏まえて、条約を見直して、解釈を見直して、大きく変えようとしているのは皆さんなんですよ。ですから、理解を求めなければいけないし、過去の法案が理解を得られなかったことにもっときちっと率直に反省と言っていいと思うんですよね。そういう姿勢が冒頭お話しをした答弁では一切なくて、むしろ、過去強い反対があって、この法案を不安に思っている人がいる、そういう人たちを上から、これは間違いなんだ、そう言っている人たちが何かおかしいと。国民の理解が得られなかったということを重く受けとめているんだったら、なぜそういう上からの視線の答弁になったのか。申し上げていることはわかっていただいていますか。
この法案がこれからどうなるのかわかりませんが、この法務委員会、それから、恐らく審議入りするとなれば本会議でも趣旨説明が行われるでしょう。そこの文言に今私が申し上げたような趣旨を必ず取り入れていただきたいと考えますが、いかがでしょうか。
○金田国務大臣 井出委員からの非常に貴重なアドバイスだというふうに思っております。(←貴重なアドバイスというからには、生かしてほしい)
先ほど申し上げたとおり、過去の組織的な犯罪の共謀罪を含む、いわゆる共謀罪を含む法案審議の過程において国民の皆様の不安や懸念を払拭できなかったことについては重く受けとめておりまして、新たな法案の提出に当たりましては国民の皆様に対する丁寧な御説明が必要であるということは認識をいたしました。
○井出委員 冒頭紹介した政府の発言というものは、これまでになされておりますので、それがなければなという思いは本当にあるのですが、重く受けとめていただきたいですし、できれば、この国会の冒頭で付言してきたものについての反省についても、きちっと言及をしていただきたいと思います。そのことについてはいかがでしょうか。
○金田国務大臣 委員の御指摘も踏まえまして、今後、対応を検討していく過程でそのアドバイスを生かしていきたいなと思っております。
○井出委員 今度出る法案が過去の法案と別のものであるかどうかは、お互い、現時点ですと主張は違っていると思うんですね。ただ、その説明の仕方というもの、国民の理解の得方というものがあると思うということは申し上げておきたいと思います。
(ここからは、広い共謀罪がもともとあり、大きなテロもあったアメリカが、現状どうであるかを例に、今後のことを問題提起↓)
次に、この法案がこれから世の中にどういう影響を与えていくのかということを少し考えていただきたい。
二月八日、衆議院予算委員会、私の質問に対しまして、大臣は次のようにおっしゃっております。「ですから、委員がおっしゃるように、さまざまな立場の皆さんの連携で、安心と安全、そして個々人の自由、幸せをしっかりと守るという気持ちを持つことが最も大事である」と。それから、少し飛ばしますが、似たような話がもう一度出てきております。「その先を思う、先生と同じ、まあ、私は先生じゃないんですが(←私は先生じゃありません!)、我々はやはり国民の幸せと安心と安全を守りたい、その一心で議論をしている」と。
私、この大臣の答弁を引き出すに当たって、安全と安心という言葉は使いました。この安全というものは、大臣のおっしゃるテロ対策です。安心というものは、私が質問させていただいた刑法の謙抑主義、それから大臣がお答えになった罪刑法定主義の重要さを、その意味を込めて安心と安全という言葉を使いました。これに対して大臣は、その二語に加えて自由と幸せという言葉を使われた。
個々人の自由ということについては、恐らく、刑法の謙抑主義、罪刑法定主義の大切さについて含意されたのだと思います。そこで、幸せというものについて伺ってまいりたい。
共謀罪がフルスペックである国、アメリカ、イギリス。例えば、アメリカの現状が今どうなっているのか。九・一一という大きなテロ事件がありました。その後、治安対策の強化が急激に主張、推進をされております。もともとアメリカでは、一九七八年、外国情報監視法、FISAと読むのだと思いますが、によって外国人の通信傍受というものが認められました。九・一一の一カ月後にその権限を強化するパトリオット法という法が成立をしまして、政府の監視活動を強化する条項が入りました。
以下、ある論文を御紹介します。
このパトリオット法においては、FISA、外国情報監視法に対して、広範な通信傍受活動を認め、特定の電話回線、コンピューター及びその他の通信手段を個別具体に指定せずとも、対象者に対するまたは対象者によるあらゆる通信の傍受が可能となった。また、これまでは、監視活動遂行のためのサポートは、裁判所による指定を受けた第三者機関(有力な通信事業者等)によるものであることが必要だったが、パトリオット法においてその限りではなくなった。この修正は、善良な利用者、特に、公共施設、図書館、大学、インターネット喫茶等においてインターネットにアクセスする者のプライバシーに大きな影響を与えるこ
ととなった。例えば、そのような施設において監視対象者が通信の実施をした場合には、FBIは、当該施設の全ての通信をモニターすることができる。また、モニターに関する協力要請を受けた者(図書館等)は、モニタリングが実施されていることを口外してはいけない。また、この広範な通信傍受活動は、合衆国憲法修正第四条が要求する捜索令状において、捜索場所の特定に合致をせず、合憲性に係る問題を生じさせた。この論文は、平成二十七年九月から翌二十八年の二月までアメリカに留学をした法務省公安調査庁の若手の職員が、「米国におけるテロ対策の現状及び課題」として公にしているものであります。この共謀罪という法律は、まあ、テロ等準備罪という名前でもいいですが、犯罪の実行着手から見て、現行法と比較した場合、予備罪、準備罪と比較した場合、時間的にかなり前の段階で、計画の段階で検挙をしていくということは、名前がどうであっても変わらないかと思います。(←ここは大事)
通信傍受について、金田大臣は予定をしていないということを何度も答弁をされておりますが、その一方で、将来は検討の可能性がある旨の答弁をされております。この通信傍受の、使わない使わないと繰り返されている答弁の理由と、そしてまた、将来検討の可能性があるというこれまでの答弁は維持されるかどうか、改めて確認をしておきたいと思います。
○金田国務大臣 テロ等準備罪の創設に伴って通信傍受の対象犯罪とする予定かどうかというお話であると受けとめました。テロ等準備罪を新たに設けることに伴いまして、テロ等準備罪を通信傍受の対象犯罪とするかということは、全く予定をしておりません。そして、将来にわたって通信傍受の対象犯罪にしないと明言できるのかというふうに言われました。まあ、明言するのかということですね。それに対しましては、テロ等準備罪を含めて、通信傍受の対象犯罪を追加する法改正を行うことは予定はしておりません。(←大変重要なところ。きょうも内閣委員会の質疑で、警察のトップ、国家公安委員長に改めて確認した部分だが、まだ疑念は拭えない。犯罪実行より時間的に遥か前の計画や凶暴で逮捕するためには、証拠に基づく捜査よりも、情報収集、監視的捜査の必要性は高まると考えらえるので、ここは、さらに今後の質問ポイント。)
○井出委員 ここはまたいずれ深掘りをしたいと思っておりますが、現在の通信傍受捜査というものは、きちっとその令状が要る、さまざまな限定がある。そうした中で実際に、共謀、合意という、これまでの刑法では一般的には取り締まってこなかった、まあ、限定で共謀罪というものもありますが、そうした段階のものに適用できるかというところはやはり議論があると思います。
その一方で、警察庁は、これまでの今後の刑事司法のあり方などをめぐって、会話傍受と新たな捜査手法の必要性を繰り返し述べております。警察庁のホームページを見ますと、こんな文章があります。
警察においては、警察捜査を取り巻く環境の変化に適切に対応していくため、会話傍受制度や仮装身分捜査、証人保護プログラム等のさまざまな捜査手法について不断に検討を進めていく必要があると、会話傍受のことはしっかりと出てきております。今読み上げました文章は、警察庁の採用情報サイト、新たに警察官になりたいという人が見るサイトです。ですから、警察の捜査の今後をしっかりと明示しているのかなと思います。
通信傍受の拡大、それから会話傍受の導入、そうしたものが、今、法改正は予定されていないと。その一連の、会話傍受、通信傍受の拡大が、今検討されているこの共謀罪の新設、大幅な拡大によって、そうしたものの導入の議論が私は加速されるだろうと思って見ておりますが、その点についてはいかがでしょうか。(←議論が加速することは確実ではないかと私は思っている)
○金田国務大臣 捜査手法のあり方、捜査のあり方については、個別具体的な事案に応じてさまざまでありまして、一概にはお答えをしかねるのでありますが、テロ等準備罪の捜査についても、現在行われている他の犯罪の場合と同様の方法で、刑事訴訟法の規定に従って必要かつ適正な捜査を行うこととなるものと考えております。(←ここは全く答えていない。今日の内閣委員会で、警察トップの国家公安委員長は、「捜査手法の検討は、テロ等準備罪とは別物」と答弁したが、この答弁は、さらに問いただしていかないといけない)
○井出委員 このテロ等準備罪、共謀罪、私は、前段に少しアメリカの事例を取り上げましたが、日本はそういう大きいテロというものが幸いにしてないわけですね。ですから、アメリカの事情が理解できないわけではございません。
実際、この共謀罪、テロ等準備罪の世論調査を見ますと、その必要性を容認する数字というものが高い、そういうものが新聞等で出ております。テロ対策の必要性を何となく皆さん、国民が感じているかもしれない。この点について、この法案でテロ対策が万全になるということはないということは、また機会を改めて徹底的に明らかにしていきたいと思いますが。
一昨年、衆議院の法務委員会で通信傍受捜査の拡大について議論をしたときに似たような思いを、この共謀罪についてなぜ世論は容認をするのか、通信傍受捜査の拡大についてなぜ通信傍受捜査導入時のような大きな反対がないのかということを同じ思いで考えたのですが、一つには、治安、犯罪対策というものへの要請があると思います。
それともう一つは、インターネットでこれだけ今情報が氾濫をしている。インターネットに積極的に自分自身も書き込んでいる。メールやメッセージだって、さすがに自分のものは人には見られていないだろうけれども、アメリカの話とかを聞いていれば、見ようと思えば見られるものになっているのではないか。私は、これは一つの諦めのような心境の容認の仕方なのではないかなという思いを、通信傍受の捜査の拡大のときの議論そしてまた今回の世論調査の数字を見ていて思うのです。
大臣の答弁でおっしゃった幸せというものは、日本が今、すばらしい治安を誇っている、その安全を守る、それから刑法、刑罰に謙抑的な、安心できる社会である。これは、世界の先進国ほど犯罪情勢は多様になってきますから、そういうバランスをとるということはなかなか難しい。そのバランスをとることこそが幸せな社会であって、どうせもう、インターネットというものは自由にやれるけれども、みんな見ているんだ、悪いやつは監視されるんだ、そういう気持ちで日々過ごしていく社会というものが本当に幸せと言えるのか。そのことについて伺いたいと思います。(←幸せとは、理想なのかもしれないが、日本は世界よりも幸せを守っていると私は思う)
○金田国務大臣 幸せという意味をどの範囲で捉えるかというのはあろうかと思います。幸せは非常にさまざまな内容を持つものだと思います。今委員が御指摘になられた、監視のないという表現をされましたが、それも非常に重要な要素ではないかな、こういうふうに考えておる次第であります。
○井出委員 刑法の謙抑主義というものを、言葉は前回の予算委員会でも紹介をしたんですが、それを日本で一番最初に言った方は宮本英脩さんといいまして、京都帝国大学の教授の提唱であると言われております。一九二六、昭和元年に、刑法学綱要第一分冊というものの中で初めて紹介したと言われております。
この方の論文を読んだのですが、この宮本さんは、人間の風邪や病気に社会と犯罪との関係を例えられて、社会も時を経ていくといろいろな犯罪要因が出てくる、それに対して手を打っていかなきゃいけない、人間も年をとってくればいろいろ対処をしなきゃいけないところがある、いろいろ薬を飲まなければいけなくもなってくると。果たして、この共謀罪、テロ等準備罪というものが、私は、まだ健常で、風邪を引いたりちょっとお酒に弱くなったとかいろいろあるかもしれないですけれども、例えば健常でしっかりと歩ける人に松葉づえを持たせるようなことになるのではないか。
宮本さんの言葉をかりれば、犯罪というものは根絶することはできない、人間に、風邪一つ引かないで生涯壮健に生きろと言われたら、恐らくその人間は部屋から一歩も出ることができなくなるだろう、風邪とか病気とかけがというものは防ぐことができないんだ、だからこそ、そういうものがどうしてもあるということを認めて、それをどう予防していくか、犯罪の予防の意義を説かれているんですね。
人間の体、病気、そういうもので例えれば、私はやはり、必要以上に刑法をふやしていく、まあ、条約で入らなければいけないという理由は一つあります、しかし、日本は治安がいい、国内的な治安情勢を見れば、今、共謀罪を幅広く設定するという意味合いはないのではないか。
私は、幸せなのは、どちらかといえば、できるだけ刑法の謙抑主義を守っていくということだと考えますが、大臣のコメントをいただきたいと思います。
○金田国務大臣 委員御指摘のとおり、もちろん刑法の謙抑主義というのは重要である、このように思っておりますが、一方で、三年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えておる現状の中で、昨今の国内、国外のテロ組織による犯罪を含む組織犯罪情勢等に鑑みますと、テロを含む組織犯罪を未然に防止して、これと闘うための国際協力を可能とするようなTOC条約を締結することは不可欠であろう、このように考える次第なのであります。(←謙抑主義よりもオリンピックのテロ対策、のための条約に入ることが大事と、ここは明確な反論だった)
現行法は、TOC条約が定める重大な犯罪を行うことの合意または参加の犯罪化義務を果たしておりませんので、そのこと自体が十分な立法事実に当たりまして、繰り返し御説明をしてきたところであります。
具体的に、犯罪化義務を果たしていないということに関しましては、現行法上、参加罪は存在せず、そして、共謀罪、陰謀罪が設けられているのはごく一部の犯罪にすぎません。また、予備罪は予備行為を処罰するものであって合意を処罰するものではない上に、裁判例上、相当の危険性がなければ処罰の対象とはならないという状況にあるわけであります。
したがいまして、TOC条約の犯罪化義務が果たされていないということが明らかなわけであります。
(ここからは、新たな共謀罪に、チェック機能はあるかという問題提起)
○井出委員 条約の話が出ましたので少し私からも申し上げたいのですが、尾崎久仁子さんという方がおりまして、この方は、もともと外務省、それから法務省刑事局にも出向して、今、国際刑事裁判所裁判官、裁判所第二次長に選出をされている方であります。この方が二〇〇七年に「刑事法ジャーナル」というところに文章を寄せているのですが、当時の尾崎久仁子さんの肩書は、国際連合薬物・犯罪事務所、まさに条約関係を扱うところの条約局長のお立場でありました。
その主張を見れば、国連のお立場、外務省、法務省と行かれての御発言ですので、日本の国内法を整備すべしだ、そういうことを一貫しておっしゃっているんですが、その最後のところで御紹介したいところがございます。
国際社会においては、国際刑事法の発展は国際人権法の発展といわば対になって、あるいは一体化して進められてきた。この条約が求める措置が国際社会の害悪と闘うために必要であるとするならば、求められるべきものは国内の刑事法を強化しないことではないと。この方は国内法を整備しろというお立場なんですね。そうはっきりと述べられているんですが、最後の結びとして、その後、国内刑事法と人権保障の双方の強化をする発展的バランスの確立であると思われる、そのことが重要だと述べられております。(←政府と同じ、共謀罪を整備すべしという論者の言葉から、人権保障の大切さを見つけたのは、われながら良かった)
これまでの法案の審議、細かいことは成案が出てからやると思いますが、少なくとも、大きなところを議論した限りでは、今回、共謀罪をたくさんの犯罪に対象を広げることで、それに対して、人権を擁護するようなものがあるのか。
二〇一三年の特定秘密保護法、あれも大変評判が悪く、私も反対をしました。しかし、あれは、すったもんだあったおかげで、今、曲がりなりにも国会にチェック機能ができた。昨年、一昨年の通信傍受捜査の大幅拡大はどうだったのか。立会人は要らなくなる、いずれ警察の施設内でやることができるということに対して、我々はくどいほどそのチェックを求めた。チェックを求めた、その実現には必ずしも至りませんでしたが、あれだけ本当に、私は何度も何度も、どの会にもそのことを言ってきておりますから、何かあったときは、あれだけ言ったじゃないかと、それを言うことのできるぐらいの資格が私にはあると思います。
今回のテロ等準備罪、共謀罪の新設については、そうした人権に対する配慮、チェックのところ、そうしたものの議論はこれまで一切なかったと思いますが、何かおっしゃっていただけるようなことはあるのでしょうか。
○金田国務大臣 ただいまの委員の御指摘でございます。申し上げるまでもなく、テロ等準備罪に限らずに、罰則を立案するに当たりましては、人々の安全、安心を守るという要請を、人権保障の要請をないがしろにすることなく実現をしていくということが常に課題になるんだ、このように思っている次第であります。この課題をどのように克服していくのかということをしっかりと検討して、そして国民の皆様に御理解をいただけるように御説明するのが政府の責務ではないかな、このように考える次第であります。(一般論というか、あまり答えになっていない印象を受けた)
○井出委員 まだ成案を得ていないというのであれば、今、与党の中で部会が開かれているとも聞いておりますが、この部分についてもしっかりと議論をしていただきたいと思います。(与党は法案を了承したという話がきょう、マスコミから伝わって来て、与党内で、チェックについて議論がなかったとすれば寂しい)
(最後は罪刑法定主義の大切さについて、ここは質疑というより、私の演説に近いが大事なところなので時間をかけた)
それから、最後に、罪刑法定主義がいかに重要であるかというところについて、少しお話をさせていただきたい。私がさきの予算委員会で質問したときに、大臣の方から罪刑法定主義というお話を挙げていただきました。私は刑法の謙抑主義というものを挙げましたが、いずれも根底は同じ、刑罰を行使していく上で非常に重要な概念であると思います。この罪刑法定主義の考え方というものが一体どれだけ日本に長く根づいているのか、それがいかにして守られてきているのか、そのことについて何か感じていらっしゃることがあったら、まずお話をいただきたいと思います。
○金田国務大臣 罪刑法定主義というのは、一定の行為を犯罪として行為者を処罰するためには、あらかじめ成文の刑罰法規によって犯罪と刑罰とが規定されていることを要するという原則をいうものと承知しております。その趣旨は、国家の刑罰権を法律の定める限度に制限することによって、個人の権利と自由を擁
護しようとするところにあるのではないか、このように考える次第であります。
○井出委員 罪刑法定主義というものがいかに大切にされてきたかというところをお話しさせていただきますと、現行の刑法は明治四十年に始まっております。しかし、罪刑法定主義というものは、その一つ前、今から百三十五年前の旧刑法に明記をされております。旧刑法の二条に「法律ニ正条ナキ者ハ何等ノ所為ト雖モ之ヲ罰スルコトヲ得ス」と。(←罪刑法定主義は戦争の反省とか、戦後レジームとかいう話ではなく、明治15年からの日本の国柄。ちなみに罪刑法定主義はイギリスのマグナカルタ、フランスの人権宣言、アメリカの合衆国憲法にもある。)旧刑法に大きな力を果たしたと言われているのは、ほかの日本の法律の近代化にも貢献をしてくださったフランスのボアソナードであります。ただ、そうはいっても、日本の刑法というもの、それまでの江戸時代それから幕末、王政復古、大政奉還の直後は、まだはりつけですとか首をはねるとか流刑というものが認められていた。それを大きく法典的に変えたのがこの旧刑法なんですが、そうはいっても、まだ日本には、むしろ罰を厳しくしようという考え方が残っておりました。
それから、当初フランスのものを参考に刑法が整備され、すぐにほかの法律と同様に、ドイツの考え方、フランスのような共和制ではなくてドイツに見習おうということで、ドイツにあらずば法にあらずということで、刑法もいじられることになるんです。そのときは、ボアソナードの師に当たる方にオルトランという方がいて、その方に学んだ宮城浩蔵さんという方が、旧刑法から今度、現行法の刑法の制定に一定の力を果たすことになる。
明治四十年にできました刑法の一番の特徴と言われているのは、刑の執行猶予制度を設けたこと、それから正当防衛を殺傷罪だけではなくて広く一般化したこと、そうしたさまざまなものがあって、参考にしたドイツの刑法よりも進んでいる、そういう評価をされている論文を幾つか見ております。(←明治維新、不平等条約解消などのために、近代化を急いだ日本は、外国のいいところを取り入れたと、刑法については言えるのではないか)それが、例えば自由民権運動を取り締まる、すみません、名前はちょっと定かではありませんけれども、新聞何とか条例というものができたり治安維持法というものができて、戦争に近づくにつれて、やはりそうした罪刑法定主義、そういうものの大切さというものがだんだん失われていく。
では、戦後はどうだったのか。戦争が終わったからといって、必ずしも刑法が大きく変わったわけではありません。刑事訴訟法は確かに大きく変わりましたが、刑法そのものは、不敬罪であるとか姦通罪であるとか、そうしたものがなくなったにとどまった。大枠を維持したというのが主な刑法学者の言い方であります。
しかし、先ほどの議論とも重なるんですが、それから絶えず、社会の高度化によって、やはり犯罪に対して厳しく処罰をしなければいけないんだ、そういうことがいつの時代も言われてきたと言っても決して過言ではありません。(←ここはとても大事、日本もそうだし世界もそう)
戦後で申し上げれば、一番端的なのは改正刑法草案の議論があったときです。そのことについても、最終的には、口語化に絞った、書き方を変える改正へと縮小していくことになって、日本は、やはり法律罪刑法定主義ですとか謙抑主義の原則というものに対しては極めて厳格であった。
その一方で、犯罪は高度化をしておりますから、今では当たり前ですけれども、著作権法や証券取引法の改正は一九八六年、私が生まれてからのことであります。独禁法への刑事制裁の強化、それから、国際的なものでいえば、八〇年に国際捜査の共助法などというものもできておりますが、日本の刑法にかかわるものをふやすということは、そうして個別の目的に応じて個別に対応してきているんですね。(←ここはさらに大事、ここはさらに明確にしていきたい)
共謀罪、今回、二百七十七だと思いますが、広く包括的なものを一気に刑法にふやすということは、私はその意味においては、恐らく、戦前戦後
を見ても、これは本当に大きな転換点ではないか。テロ対策は確かに非常に大事だと思うんです。でも、私は、できるんだったら個別に手当てをした
方がいい。今までの刑法の改正の中で一生懸命守ってきた大事な謙抑主義、罪刑法定主義の原則というものをここで一気にぐわっとふやしてしまって本当にいいのか、それだけの危機感はあるのか。このことは国民にも考えていただきたいことでありますが、それだけの大きなことに着手をしようとしている、そこに、金田大臣がその任に当たっている、その危機感、緊張感というものがどれだけあるのかということを伺っておきたいと思います。(←ここは特に強調したいところ。「国民にも考えていただきたい」という言葉をこれまで使ったことはなかったが、この法律をなんとなく容認しているとしたら、もっと大切なものがあるということをどうしてもお伝えしたかった)
○金田国務大臣 井出委員からは、非常にいいアドバイスといいますか、本来の、刑法に対する考え方、罪刑法定主義から始まって、御指摘をいただいたと思っております。
現行法との整合性が確保されるということが非常に、私、御指摘をいただいたとして考えた場合に、既遂犯の処罰というのが原則である。実行着手にとどまる未遂よりもさらに手前の段階となる予備、共謀の処罰というのは、犯罪の未然防止を図る上で必要性の高い重大なものについて例外的に設けられているものと認識をしております。この点、テロ組織を含む組織的な犯罪集団が計画をして実行する犯罪というのは、国民生活に重大な結果をもたらすんだ、したがってその未然防止を図る必要性は高いんだ、こういう考え方だと思うんですね。
したがいまして、そのような犯罪について、合意に加えて実行準備行為が行われた段階で処罰するものとするということは、重大な結果、重大な犯罪ということとの視点からまいりまして、現行法の規定との整合性を欠くものではないのではないかというふうに考える次第であります。(←ここは、抑揚なく大臣が答弁したので、新井がよくわからないが、とりあえず法案の必要性は述べている。でもこうして改めて字にしてみると、合意や準備行為やらの条件をつけて重大犯罪を取り締まるのだから、謙抑主義や罪刑法定主義の原則からはみ出ないと言っているように見える)
○井出委員 穏やかにお話をされましたが、法案の必要性というものを今お話しになったと思うんですが、きょう知っていただきたいのは、刑法を大きく変えかねないような、そういう話であるという緊張感を持っていただきたい。(←ここの、緊張感については、今日の法務委員会で、逢坂議員が改めて問うたところ、大臣から「緊張感を持ってやっていきたい」旨の答弁があった)
立法事実として、一つ、条約に入るということはあると思います。それから、それが結果としてテロにも資金が回るんじゃ、そういう話も私は理解をします。だけれども、最近の予算委員会で言われている、百八十七の国がこの条約に入っていて十一だけ加盟できていない、それは恥ずかしいという、私はそれは数の問題ではないと思うんですね。むしろ、日本が謙抑主義、罪刑法定主義を守ってきたことの方が誇るべきことであって、何か国連の会議に行ったら第三列でオブザーバーだみたいな話よりも、私は、今の日本はよっぽどとうといものを持っていると思う。
民進党は条約の参加というものについては肯定的に捉えているんですが、私の問題意識は、きょうお話をしたように、この条約に入ることの必要性で刑法の一番大事なところが失われるようであってはならない、その視点でこれからもまた議論をしていきたいと思います。きょうはありがとうございました。
○鈴木委員長 次回は、明八日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後四時三十二分散会