尖閣映像をインターネットに投稿したと名乗り出た海保の職員を、
捜査当局が「逮捕しない方針を固めた」と報道されている。
この方針を評価することをまず述べたい。
私は以前このブログで
「映像を政府が早期公開し、
海保職員の刑事責任に情状を認めるべきだ」と書いた。
それは、中国人船長を処分保留で釈放したことと、
映像を「中国漁船の故意の証」と誇っておきながら
公開を中途半端にしたことの、2つの大きな責任が政府にあるからだ。
NHKの報道によると、逮捕しない理由は3つ。
1つは「情報の秘密性」。
捜査の結果、海保内では誰でも映像を見ることができる時期があったことが分かり
守秘義務違反を問えるかどうか慎重な判断が必要になったようだ。
2つ目は「逮捕の影響」。
中国人船長を処分保留で釈放したことなどを考えると
海保職員逮捕の影響は計り知れないということのようだ。
そして3つ目は、「捜査の着地点が見えないこと」。
起訴できるかどうか現時点で判断できないから逮捕を見送り
任意で捜査を続けるという。
NHKのインタビューに応じた若狭弁護士(元東京地検公安部長)は
「現時点で起訴が難しいので逮捕を見送ったのではないか」と話していた。
とはいえ、この映像は海保職員や検察官でない限り触ることができないので、
海保職員の責任は免れない。
懲戒処分もあるだろうし、今後の任意捜査によって「略式起訴・罰金」。
または、「犯罪事実を認定して起訴猶予」という結論もあり得る。
捜査の展開によっては起訴の可能性がまだあるかもしれない。
しかし、身柄を拘束しないことを決めたのは大きな判断だと思う。
捜査当局が柔軟な判断をしたのか、
はたまた政治判断なのかは分からないが英断だったと評価したい。
私は中国人の船長の釈放についても、釈放だけは評価している。
領土に関わる問題で国民が他国に拘束されて黙っている国はない。
身柄の拘束を解くという政治判断はあってしかるべきだったと思っている。
しかし、処分保留という結論は許せない。
どうせ政治判断をするなら、略式起訴・罰金でもよいから、
「犯罪事実を証明した結論」を出して釈放するべきだった。
中国人船長の場合は公務執行妨害の疑いで、さらに否認をしていたから
略式起訴は通常ならありえないが、
真に高度な政治判断とはそういうものではないか。
身柄を拘束するということは、どんな場合でも重いことだと思っている。
私が以前ブログで書いた、
「西山事件」の西山太吉 元毎日新聞記者は
11月12日朝日新聞朝刊17面で次のように話している。
「今回の問題を受け、政府は機密保全に関する罰則強化に言及している。
掲げてきた旗印を捨て去る兆しではないか。
民主党政権は国家情報の公開こそが民主主義の要であるとして、
沖縄返還密約も徹底調査したはずだ。情報公開を大前提とした
枠組みの中で適切な情報管理がなされるよう、
国民もメディアも監視を強める必要がある」。
全くその通りだと思う。
自民党時代の密約を認定したことは、今となっては唯一の政権交代の成果だった。
自らが権力の側に立ったからといって
情報公開を閉ざすような罰則の強化は時代の逆行だと思う。
さらにいうと、罰則を強化すれば必ず
その罰を乗り越えようとする者が出てくるし、
仮にその意図に正義があれば
刑事責任を負う英雄が再び表れるだろう。
西山元記者の名誉を回復した民主党政権だからこそ、
機密保全に関する罰則強化には慎重であってほしい。