数日前チラシ配りをしていたら母ぐらいの歳の女性から、
「NHKといういい会社に入ったのだから
成功の道が開かれていたでしょうに」と言われた。
私は、
「今は歩きにくい道を歩いているかもしれないが、
進みは遅くても自分の目標につながる道を
歩いている気がします」と答えた。
その翌日から北アルプスに登った。
前々から新聞記者の人に誘われていて、
自分もその記者と政治談義をしながら
山に登るのを楽しみにしていた。
鹿島槍ヶ岳という2889メートルの山に
1泊2日で登頂したが本格的な登山は初めてだった。
驚いたのは、
急峻な岩場などが多かったことだ。
これまで整備された山道しか
歩いたことがなかったのでかなり苦労した。
そしてきつい岩場を登りながら
前日の女性とのやりとりを思い出した。
大半の山は車で頂上近くまでいけるし
整備された山道を歩けば山頂に着く。
しかし、もっと高い山にのぼり
素晴らしい景色を見たいと思ったら
整備がほどんどされていないような山道を
何時間もかけて登るしかない。
鹿島槍ヶ岳の登山は往復で17時間歩いた。
仮にNHKを辞めなかったとして
その後の人生を山に例えると
リフトに乗ったり整備された道を進んで
それなりの山頂に至ったかもしれない。
しかし自分の登りたい頂上が違うと気づいたら、
進路を変えて道なき道を進むしかない。
私はいま、
これまで歩いた道から降りて
自分の登りたい山につながる
急峻な岩場を歩いているのだと思う。
進みは遅いし時間もかかる。
それでも前に進んでいる。
北アルプスに登ってもうひとつ驚いたことは
17時間歩くと
下界からは想像もできないような
長い稜線などを越えられることだ。
登山の途中途中で後ろを振り返るたびに、
一歩一歩の歩みで
大きな山を越えてきたことに感動した。
そして明け方、
頂上近くでみた雲海や
頂上から360度に広がる北アルプスの山々の景色は
今でも夢ではないかと思うぐらい
素晴らしいものだった。
自分の知らない世界だった。
大きな目標を果たすためには
苦しい道を一歩一歩進むしかない。
そして、
一歩一歩の積み重ねは
あとで振り返ったときに
非常に大きなものになっていることに気づくだろう。
小さな一歩を信じて毎日を過ごしたい。